Google Analytics

2018年1月7日日曜日

TSONTS-13 萬葉学会の審査の妥当性の検討(3) Q氏の不掲載理由(中の一)

萬葉学会のQ氏による査読理由の検討を続ける。不掲載の理由の全文は萬葉学会の審査の妥当性の検討(1) 拒絶理由と最初の反論を参照されたい。

しかしながら、本論は仮設動詞アクの語義分析ではなく、ク語法という準体句相当の語法の解析を目指しているはずである。

この「目指しているはずである 」は「国語学の論文に特有の非論理的な推論 その6 説得力」の「6-6 説得力の六」に書いた「理由無き断定」である。理系の論文を読んだり書いたりしていたものが、国語学の論文を読むときに抵抗を感じるのは、当該分野の研究者の一致した見解とも言えないことを、このように理由を示さず、かつ、それまでの論理の流れから独立に断定的に述べることである。

ク語法という準体句相当の語法」は従来説である。それに対して、用言の連体形に「あく」という動詞が付いたもので、その「あく」の形は終止形と連体形の二つの場合があるとする説を提案した。例えば「言はく」ならば「言ふ」に「あく」が下接して「言はく」という形ができた、その「言はく」は終止形と連体形の二つの場合がある、という解釈をした。

そのような立場に立つ以上「準体句相当の語法の解析」は出来ない。地動説の論文を書いて「この論文は天動説を説明していない」と言われるようなものである。例えば誰かが「モダリティ論」を用いた論文を書いたとして、「本論は従来の助動詞論の立場からの説明を目指しているはずである」と言う人はいるだろうか。著者はどう思うだろうか。

「理由」をメールで受信した当日に書いた反論には次のように書いた。


ク語法は用言を体言化する用法である、あるいは、アクという形式名詞が付加されたものであるという従来仮説と本稿が大きく異なるため、なかなか理解されがたいだろうと考え、異例とも言える大量の用例の検討を行ないました。

>本論は仮設動詞アクの語義分析ではなく、ク語法という準体句相当の語法の解析を目指しているはずである。

本稿はク語法の成立を明らかにすることが第一の目的です。仮定した四段動詞アクは終止形の場合と連体形の場合があります。連体形の場合準体句を形成しますが、準体句の場合も他の活用語の準体句に順ずるものであると考えた解釈を示しました。とくにアクの準体句だけに特別な用法があるとは思いません。「はっきりと知覚される」という意味の動詞の準体句と考えて何ら矛盾することころはありません。

なお、この「はっきりと知覚される」という表現は「かすかに知覚される」状況でないという意味で「はっきりと」という副詞句を付けた。Q氏はのいう「plainな知覚」については次回述べる。

本稿の目的は「ク語法という準体句相当の語法の解析」ではなく、「ク語法の解明」であり、ク語法の本質を明らかにすることである。本質とは準体句等という見かけの姿でないという意味である。従来説では解明できなかった「 ナクニ止め」の謎が明らかになったことは本稿の大きな成果である。「ナクニ止め」とは「思はなくに」などで切れる歌のことであり、その意味は従来詠嘆と解釈されたきた。詠嘆説ではなぜ「なくに」の形だけが詠嘆の意味を持つかが説明できない。従来説は「詠嘆の印象を与えるからきっと詠嘆の意味があるのであろう」という遡及推論、つまり、従来説は後件肯定という論理的誤謬に基く推論の結果である。そのような成果を握りつぶした(意図的にか知らずにか)萬葉学会のP氏とQ氏は雑誌「萬葉」の読者の利益を損ねたことに気付いてほしい。

従来の所説では解明できなかった「 ナクニ止め」の謎が明らかになったことは本稿の大きな成果である。

文法上の名詞句の働きとして、構文上にモーダルな意味が付加されているのか、それともアクそれ自体の語義によっているのかが、本論では明らかではない。

これに対して、最初の反論には次のように書いた。


様相性(modality)の研究が盛んですが、言明が命題と様相とにはっきりと区分されはしません。様相性を表わすとする語のどこまでが命題の一部なのかどこからが様相を表わすのか区分できる研究者はいないと思います。事実数理論理学では命題に様相性演算子が付加されたものもまた命題です。命題と様相という区分は多分に便宜上のものと考えます。たとえば「に違いない」は様相を表わすと言う意見が一般的のようですが、これを命題の一部と捉えても何ら問題はありません。対応する英語のmustがあるからその訳語を様相性を表わす表現と看做しているに過ぎません。言語学における様相性(modality)は印欧語の直説法や仮定法などの法(mood)に準ずるものとして考えられたものですが、それと同じものが日本語にあるか否かは難しい問題だと思っています。

様相性について本稿は「アクが証拠性を担う助動詞であると断定してよいかは現時点で判断が付かない」と述べるに留めました。この証拠性はevidentialityの意味で使いました。日本語の様相性の問題は今後の課題としたいと思います。

アクの担う意味については用例の解釈の中で十分に示したと考えます。従来のク語法は用言の体言化という仮説では解釈が難しいものを解釈できたと思います。

Q氏の「文法上の名詞句の働きとして、構文上にモーダルな意味が付加されている」の意味がわからなかった。そこでいう「名詞句」は「言はく」なのか「言ふ」なのか。前者は「言はく」を名詞句と考える従来説、後者は「言はく」を「言ふ」という連体形と「あく」という四段動詞の連語と考える本稿の説だが、Q氏は従来説を絶対的な真実と考えているようだ。Q氏の言う「モーダルな意味」は本稿の「はっきりと知覚される」という説明をQ氏がモダリティと考えたためだが、「構文上に・・・意味が付加される」とはどういうことか。その後高山氏の一連の論文を読んでわかったのだが、高山氏は構文が単独で意味を持つと考えているようだ。Goldbergの提唱する構文文法(construction grammar)は動詞の意味と屈折が示す法や態と名詞の格が一体となって特有の意味を生ずることではないかと思う。高山氏は構文という観念的なものに意味が付加されると考えているのだろうか。Q氏が高山善行かどうかは分からないが、高山氏と良く似た考えをするようである。

唯物論を信じる私は、ヘーゲルのような観念論は理解しがたく、いや、ヘーゲルがしていたのは観念論的な表現なのかもしれないが、文や句の意味単語(接尾語や活用を含む)自体と単語の組み合わせ(語順やイントネーションを含む)だけで決まると考える。Q氏や高山善行氏のように構文自体が単独で意味を持つと考える人はいないのではないだろうか。

話が拡散した。Q氏の指摘に戻る。動詞「あく」の意味は論文で述べた。上接するのは用言の連体形である。その構文が表わす意味も論文の中で十分議論した。文法理論から検討した概論を述べ、数十の用例の各々に現代語訳を付けた。それの何処が明らかでないと言うのだろう。ここまで詳しく意味を議論した論文は過去に無いのではないか。私の論文は「あく」の意味が「はっきりと知覚される」であると仮定した。それで「明らかではない」とは原稿を斜め読みしかしていないのか。読解力ないのか。これではどんな論文も「明らかではない」の一言で拒絶できてしまう。

そもそも、私が仮定した「あく」をなぜモダリティと決め付けるのか。Q氏はモダリティをどう定義するのか。これをP氏に質問したが、Q氏からの回答は無かった。国語学の世界では、このように、査読者の説に従わない論文は拒絶できるのだろうか。P氏やQ氏や萬葉学会は学問の進歩を願っていないのだろうか。

 さらに明確な知覚という場合、上代では、「世の中は空しきものと知るときしいよよ益々悲しかりけり」の副助詞「し」は副詞性助詞として「知れば知るほどに」と程度強調を表す例がある。

これに対して

「し」が「とりたて」であるか否かを別にして、「とりたて」とアクが関連するとは考えていません。そのことは大量の用例の検討から明らかだと思います。ク語法が用言の体言化であるという従来説も、そう仮定すれば歌意が通じるという理由から定説と扱われているに過ぎません。しかし本稿の仮説は記紀万葉の歌や続日本紀宣命の散文の解釈に新たな境地を開いたと考えます。公開して研究者ならびに記紀万葉の愛読者の参考に供する意義は十分にあると考えます。

と述べた。これについては編集委員のP氏も同意している。上代の文学を読みなれていたら、Q氏のような考えはしにくいのではないだろうか。Q氏は高山善行氏のように中古文学が専門なのかもしれない。しかしそういう人物に萬葉学会が査読を依頼するだろうか。萬葉学者から見て素人が書いた論文であればそのような人物で十分と考えたのだろうか。

田川拓海氏のブログ興味深い記事があった。QA形式でまとめられているのだが、Q1とQ5の質問の文言が参考になった。それを以下のように変えて使わせていただこうと思う。

Q1. なぜ萬葉学会を批判しているのですか。
Q2. なんでそんなに長々と書くのですか。心が狭いのですか。

回答は次の次の回を予定している。
 
追記:2018年1月14日午前0時50分に以下を追記。

1. Adele GoldbergのConstructionsの翻訳書を読んだ。構文自体が意味を持ちえないという従来の常識に対して、それ自体が意味を持つような構文があると彼女は考えている。ただし、高山善行氏の考えとは違うようだ。Goldbergの構文文法については後日書く。

2. 田川拓海氏のブログのQAにならった記事は下記のページから始まる。
https://introductiontooj.blogspot.jp/2018/01/tsonts-16.html


0 件のコメント:

コメントを投稿